きょうはふたつの作品を読んだ。
リジイア(ポオ小説全集Ⅰ、阿部知二訳、東京創元社)
ヴェラ(リラダン全集Ⅰ、齋藤磯雄訳、東京創元社)
両作とも愛しあったままこの世を去った妻が、後日、夫の前に出現する物語である。どちらも昔読んだ作品ではあるが、どうしてもまた読みたくなった。夫婦の異常なまでの愛が肉体の死を超越する観念劇。どちらかといえばポオの場合は形而上学的で、リジイアという妻のイデアが再婚した女に同化していくのだが、リラダンの場合はむしろ心理学的で、夫の下意識で純化された妻がこの世に形となって現れてくる。
私事になるけれど、ボクは「三月の指」という作品を書いて「死の舞踏」(2012年9月2日発行)という作品集に収録した。この作品もまた愛する妻の死体を再生せんとする夫の物語である。この作品集を読んだボクのワイフは、「三月の指」は違った題名で昔読んだことがある、ニッコリ笑ってボクを見つめている。確かに三十代に書いた作品を、三十年の歳月を経てボクなりに完成させたのだった。
ボクのワイフは、ボクの書いた作品のすべてを読んで、心から楽しんでくれた。そして彼女をおいて、ボクの作品をまともに読んでくれた人はほとんどいなかった。去年、ワイフはこの世を去った。ボクは、ただひとりの、大切な読者を失った。
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