この詩集は二千年以上にわたる西欧文化圏の詩人七十七名、計百二十五篇の恋愛詩のアンソロジーである。収録されている詩で最も古い詩は、ギリシアの詩人イビュコスの「春されば」で、おおよそ紀元前六百年ぐらいに成立した作品である。少なくともこの頃から、西欧の人は愛の言葉をささやき、それを文字で表現してきた。生きるということは、愛しあうことなのか。
この詩集もまたボクのワイフの遺品だが、かなりページが繰られたので、二十歳になったばかりの彼女の指の痕跡さえ残されている気持がした。
世界の詩集11「世界恋愛名詩集」 宋左近編集 角川書店 昭和42年9月10日初版
さまざまな詩の中で、恋愛詩はもっとも数多く書かれた言葉の連なりではないだろうか。この詩集に掲載されているような名を残した詩人ばかりではなく、ノートの片隅にひそかに書かれたあの人への愛の告白。無数の恋文。窓から夜の闇を見つめて、あるいは蒲団にあおむけになって眼を閉じて、脳裏に流れて消えていった愛くるしい言葉。人間の世界の深層に蓄積されている愛の言葉の連なりは、無限と言っていい。
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