この戯曲は、広島に住む父子の家庭が原爆に被爆、倒壊した家屋に下敷きになった父を猛火の中で救えず自分だけが避難して生き残った二十歳の娘が、三年後、恋人に出会い、はたして「父を捨てて生き残った」自分が幸福な生活を選ぶことが許されるのか、激しく葛藤する心理劇である。
「父と暮せば」 井上ひさし作 新潮文庫 平成30年10月10日21刷
(平成10年5月新潮社から刊行された作品を文庫にしたものである)
劇は、幸福な生活を送ることを否定する娘と、それを肯定する父との対話劇である。もちろん、父は既に三年前に亡くなっているのだが、「自分だけが生き残った」罪悪感に責め苛まれて幸福に生きることが出来ない娘の心の傷の本体、「死んだ父」が復活して娘を癒し、幸福になるように希望する、そんなの生者と死者の対話劇である。
ただ、ボクは、所謂「原爆文学」といわれている作品を読み続けていて、被爆者でない人が、外側から、被爆者の心を表現できるのか、はなはだ疑問に思っている。
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