高橋和巳の「憂鬱なる党派」

 この物語の背景を大ざっぱに言えば、戦前、現人神としての天皇をピラミッドの頂点とする軍国主義によって海外侵略した神国日本が、言うまでもなくその神国は明治の日清戦争以降第一次世界大戦まで不敗神話が確立していたが、残念ながら、この度は神風が吹かず、米軍を中心にした連合軍の空爆によって都市は壊滅、さらに広島・長崎に原爆が投下され、八月十五日、聴き取りにくいラジオ放送で天皇が無条件降伏の受諾を語り、ここに神は死んで、日本人の心に泥沼の虚無が来た。

 「憂鬱なる党派」 高橋和巳著 河出文庫上・下 2016年7月20日初版

 (この本は、1965年11月河出書房新社から刊行されたものの文庫化)

 さて、敗戦当時、中学生前後だった人達が、とりわけ優等生だった青少年が、京都のK大学に入学。この戦後の泥沼の虚無を生き抜く思想を求めて、共産党に入党したり、文学哲学研究会などへ参加、一九五〇年前後から、「彼等」を中心に所謂「学生運動」が激化する。しかし、「彼等」にも大学卒業がやって来る。また、卒業できなかった者には退学が。……それから七年後の社会人としての「彼等」の生きざまとその「思想」描いたのが、この書である。

 結論から言えば、「彼等」は大学卒業後の自分達の社会人としての在り方を自己批判、徹底した自己否定の果て、遂に自殺したり、犯罪者として逮捕されたり、あるいは失踪したり、釜ケ崎の浮浪者として客死する。読者は、すさまじい自己否定、徹底した自己否定とはいったいどのようなものであるか、その一端をこの書から学ぶことが出来るだろう。

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