わずか一年余りだったか、それでも四十歳くらいだった私が極めて深く交遊した忘れがたい詩人、金高義朗という男のことだが、その頃、彼はいったいどんな詩を書いていたのか、何故か強く心の底からうながされて、もう一度私の眼前に再現した。
「KAIGA」44号 編集人 金高義朗/発行人 原口健次/発行所 グループ絵画 1991年6月3日発行
この詩誌は今読み返してみてもかなり充実した一冊だった。まず、「詩」の部は金高義朗、山下徹、原口健次、平川恒、福辻淳、勝賀強、以上六名の作品、「寄稿作品」の部は理久創司、下沢白虹、以上二名の作品、「討論」の部は「神・無境界・宇宙・人間」という主題の下で山下徹/金高義朗/平川恒(河野晋平のペンネーム)が白熱した討論を展開している。これに加えて、金高義朗の受贈詩集・詩誌の「批評」、今号に発表された詩の「作品合評」。
編集人金高義朗の言葉への強烈な体温が読者に伝わってくる詩誌だった。この号に発表された彼の詩を紹介する。
快速急行
日曜日の夕暮れ
とある小さな駅のホームから
まだ若き病弱の母が
幼子二人を抱きしめながら
フライトした
その突然の
まぶしすぎる光景は
死体を追い求める顔たちに
涙することをも禁じた
一瞬のうちに
脱ぎ捨てられた重い肉の衣は粉々になり
残された左手の指だけが
枕木にしがみつく
翌朝
いつものように
脱ぎすれられた肉団子が次々と生産されていく
ラッシュアワーの中で
筋と筋とを絡ませて(本誌4~5頁)
ちなみに、この作品の「作品合評」を下に掲げておく。
金高 実際に、この事件と遭遇し、ショックを受けて。
平川 「肉の衣」が、もっとネトネトとした感じが欲しい。「肉団子」というのは、実感としてわかるなァ。
山下 僕だったら、タイトルを『嘔吐』(原題)にしない。『快速急行』にする。(原詩に数行。添削を加えながら、山下氏の熱心な批評が続く)
金高 ありがとうございます。山下さんの添削で、いい詩になりました。この詩は、僕自身不満だった。(本誌26頁)
金高はいつも小型のテープレコーダーを持参して、私たちの会話を録音、稿を起こしていた。彼は確か私よりひとつかふたつ年下だったと思うが、同世代で詩を語り合える最初の人で、また、最後の人だった。
*「KAIGA」44号の表紙絵は、金高義朗が描いた。画題は「虚構」
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