激しい雨の中をカアカアが来た。いつものウッドフェンスの縁にとまった姿、それは頭から雨水を浴び、まるで小さな黒い蓑傘が立っていた。六月十九日午前五時二十二分。亡妻悦子の月命日だった。
私は戸棚からキャットフード用のポリ容器をつかみ脇へ挟んで、傘を手に、玄関を出た。
土砂降りだった。しかし、この雨をものともせずフェンスに立って懇願するかのごとく私を見つめるカアカアを知って、カラスたちが毎日食材にありつくための苛烈な苦労が、私の両眼にありありと映じた。食欲を満たすことは大きな生きる喜びだった。
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