数日前にラクロの「危険な関係」を読み、そうだ、恋愛心理小説の作品をもう少し読んでおこうと思い、この本を選んだ。
「クレーヴの奥方」 ラファイエット夫人作 生島遼一訳 世界文学全集Ⅱ―4所収 河出書房新社 昭和39年7月10日初版
この作品は、十七世紀フランスの王朝時代に書かれ、夫以外の男に恋する人妻、現代でいう「不倫」を主題にしている。言うまでもなくこの時代の宮廷の世界では、結婚相手は親が選び、社会的地位あるいは財産を背景にした婚姻が多々見られ、恋愛結婚などほとんど希有な事件だったろう。主人公クレーヴの奥方もクレーヴ殿の求愛によって母親の承認の下で恋も知らず結婚する。その後、宮廷の務めの中でヌヴェール公に愛され、彼女は初めて恋に落ちる。夫の強い求愛に応えて貞淑な妻たらんとする理性、ヌヴェール公への激しい恋情、この二つの想いに引き裂かれた女性の悲劇を、作品は緻密にたどっていく。
個人的な話になってしまうが、妻を失って七年が過ぎ、こんな歳になってしまって、何故か私は恋愛心理小説を楽しみ始めたのだった。クレーヴの奥方の恋人、ヌヴェール公はこう言っている。
「大きな悲しみとはげしい恋、この二つは人間の心をすっかり変えるものですよ。」(本書53頁)
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