やはり今年は年初から恋愛心理小説を読み続けてしまった。
「ドルジェル伯の舞踏会」 ラディゲ作 江口清訳 「世界文学全集」Ⅱ―4 河出書房新社 昭和39年7月10日初版
先日読んだラファイエット夫人の「クレーブの奥方」は十七世紀フランスの宮廷を舞台にした独身男性と人妻との恋、現代流にいえば「不倫」物語だった。この度読んだ小説は、この「クレーブの奥方」を根底にして、二十世紀初頭、第一次世界大戦後、一九二四年に「クレーブの奥方」の変奏曲を見事に完成した、と言えば言えるのだった。ただ、資本主義が帝国主義段階に入ったヨーロッパ、中でももっとも大戦によって荒廃し、再建途上にあったフランスを時代背景にして、言うまでもなく、「ドルジェル伯の舞踏会」に登場する貴族たちは、既に過去の家系としての追憶の亡骸だった。つまり、この物語は、非存在の世界で生活している根なし草たちが演じた舞踏会だった。ラディゲは二十歳にして、虚無の中に成立する純化された不倫の世界を構築して、この世を去った。
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