五十年後の話になるが、そのころ日本でもテロが年に二回ないし三回発生し、やがてテロがテロを呼んだ。あちらこちらで頻発して、百年後には廃墟だった。もちろん言うまでもなく、これは日本だけの現象ではなく世界の隅々にまで拡散して、六歳児にもなれば男でも女でもテロに走っていた。地球全体がテロリスト、つまり人間によってこの世が自滅の過程に入っていた。
最初、日本では原子力発電所がターゲットにされた。数年後、五十カ所余りのすべての原発は破壊され、放射能があふれ出した。政府といっても東京や大阪などでわずかな人間で細々と運営され国民から取り立てる財源などほとんどない、極貧状態だった。既に国家が死滅していく寸前だった。民衆ばかりか役人や軍人などの大半は不法占拠した土地を耕し何とか食いつなぐのが精いっぱいだった。そもそも私有財産制度自体が崩壊過程をたどっていて、もはやどの土地を占拠しても違法とも言えなかった。なぜなら司法も衰弱して見る影もなかった。司法を職業にしている連中でさえどこかで土地を占拠して耕さなければ餓死するに違いなかった。七十年後から八十年後には食料の奪い合いが始まり、遂にすべての人間がテロリストだ、そう言って決して過言ではなかった。世界の人口も一億に満たなくなっていた。
彼はネパールのポカラでE子と再会した。二十年前にやって来た時、彼女を探し当てることは出来なかった。二度目の訪問でやっとめぐり逢うことが出来たのだった。彼も年老いてしまった。人生の最晩年だといってよかった。E子ももう七十前後だったろう。おそらくあと百年後、控え目に言っても、遅くとも二百年後には人間の世界はこの地球上から消滅しているだろう。他人を殺して飯にありつく有様だった。人肉を食べていたのだ。だがしかし、再会した彼とE子はじっと見つめあい、激しい愛がたがいのまなざしの中にまだ燃え上がるのを確認しあったのだった。
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