激流になるまで

 楽しい一夜を過ごした。そういえばこんな夜は久しぶりだった。酒もなかった。女もいなかった。ひとりぼっちだった。まわりは闇が囲んでいた。しかし、幸せだった。水の音がした。その音は、彼を拒絶するのではなく、和解しようとしていた。優しくて、胸に沁みるのだった。

 何か流れているらしかった。水だろうか。血だろうか。涎なのか。皆目わからなかった。見当もつかなかった。闇には言葉がなかった。ただ、何ものかが流れる音がした。つまり闇は彼の脳から入って、全身を駆け巡り、光の無数の筋を描くのだった。不可思議な話だが、これだけは確かだった。闇は光だった。

 彼はまだ愛していた。充分に愛していた。いや、充分過ぎるくらいに。なんという過剰な愛。闇に流れる音が、未明に、光の激流になるまで。

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