まだ生きている、彼はそう思った。彼女を喪って十年が過ぎていた。爆発物取締法違反容疑。罪名はいくらでもやって来た。恐喝未遂罪。パワーハラスメント。無根拠誹謗罪。男女差別容疑。同性愛拒否侮辱罪。反対運動酸化剤、いや違った、反対運動参加罪。この他にもまだまだ罪状が並べられていたが、この辺りで止そう。現在の状況に少しでも異を唱える者は、老若男女を問わず断罪し、逮捕し、闇に葬る時代だった。言葉の端々まで同一性を要求され、それを外れた者は人間失格の烙印を額に押された。そしてもはや人間と呼べなくなった哺乳類は、肉屋に回されている、そんな噂さえ巷に溢れていた。全体から外れた動きをする物、例えばあってはならない動きをする手足や目や耳、そして口などは切断してゴミ箱へ廃棄し、残った部位は料理されたのだった。それというのも、社会が貧困化し、もはや持続困難になったため、まず批判的な連中からまな板に押し付けられて切り刻まれるのは、人間本来の姿だ、真実の姿だ、それが国家の結論だった。立法も司法も行政もそう決定していた。おそらく明日の未明、彼は両手を切断されてゴミ箱へ捨てられ、それ以外の体は生きたまままな板に縛られて料理されるに違いなかった。何故なら、彼はブログで現在の人間論に反する異質な詩作品を発表していたのだった。国家の法理論通り、パソコンのキーボードを打った両手は切断されるのだった。
ところで、いささか逆説にはなってしまうが、工場ではロボットが大量生産されていた。
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