レーモン・ルーセルの「額の星/無数の太陽」を読む。

 過日、私はこの著者の長編小説を二作、「ロクス・ソルス」と「アフリカの印象」を読んだ。一応「長編小説」と書いてみたが、一言で言えば「詩的奇書」と呼ぶのが相応しいだろう。もう一歩言えば、むしろ従来の小説を否定するロマンだった。贅肉を切り落とした繊細な線描画で精密に超自然な奇想の出来事が事実この世に存在するかのごとく、これでもかと言わんばかりに何枚も描き続けるのだった。

 このたび、この著者のこんな作品を読んだ。

 「額の星/無数の太陽」 レーモン・ルーセル著 國分俊宏・新島進訳 平凡社 2018年3月9日初版第一刷

 戯曲の作品で、「額の星」は一九二四年五月五日初演、「無数の太陽」は一九二六年二月二日に初演されている。やはり、長編小説と同様、世間的ぜい肉を一切切り落とした、極めて純化された世界を走り続けている。従って、結論から言えば、この戯曲ばかりか、先に挙げた長編小説二作も基本的には評価されなかった。そしてこの四作が著者の主著であってみれば、また彼は五十五歳で睡眠薬で自殺したのであってみれば、いわゆる「世間」から評価されずにこの世を去ったわけだった。無念だったであろう。フランスで言えば、ヴィヨンやランボーやロートレアモンを待つまでもなく、典型的な天才詩人の姿だったろう。彼は「額に星」を見たのだった。同時に無限数の太陽も見たであろう。これからも一部の人に読み継がれる栄光を背負うことだろう。

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