マゾッホの「残酷な女たち」を読む。

 昔、この著者の代表作「毛皮を着たビーナス」を読んだ。周知のとおり、精神科医クラフト・エビングがマゾヒズムという言葉を生み出したその源泉、「マゾッホ」である。

 「残酷な女たち」 マゾッホ著 池田信夫/飯吉光夫訳 河出文庫 2004年5月10日初版

 この本は以前買って完読せず、本棚で眠っていた。その眠りを起こしてしまった。今回は最後まで読んだ。

 短編小説八篇、中編小説二篇が収録されている。おそらくマゾッホは流行作家だったのだろう。読みやすくて、面白い作品ばかりがそろっている。

 例えば、現代はペットを大切にする時代で、特に犬や猫を特別に可愛がって、パートナーとして共に暮らしている人が増えている。日本では、私が小さい頃はまだ犬は番犬で門前に鎖でつながれて飼われているのが大半だった。

 だがマゾッホは十九世紀後半ではあるが、さらに先を走っている。人間以外の他の生命体を愛する人は、ぜひ、この書の中の「醜の美学」を読んでいただきたい。犬や猫ばかりか、さまざまな動物と共生して暮らす家族を描いている。また、人間の身体の欠陥を超える精神的な愛の世界の讃歌を書いている。

 マゾッホの作品の中では大方、美しくて強い心を持った女の足もとにひざまずき愛を告白する男が出て来るのも、ひょっとしたら、生命への深い愛と畏怖がその根底に横たわっているのかもしれない。

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