デイヴィッド・リンゼイの「憑かれた女」を読む。

 こんな長編小説を読んだ。

 「憑かれた女」デイヴィッド・リンゼイ著 中村保男訳 サンリオ文庫 1981年4月5日発行

 この本には、コリン・ウィルソンの「不思議な天才―デイヴィッド・リンゼイ論」が併録されている。百頁近い論文で主に一九二〇年に発表されたリンゼイの処女作「アルクトゥールスへの旅」を中心に論じられているが、その二年後に発表された「憑かれた女」にも言及している。ぜひこの論文も併せて読んで欲しい。

 私はこの本の解説をする気はない。コリン・ウィルソンが充分論じている。作品はとりあえず幻想小説といっていいだろう。だが、ひょっとしたら、人間には多かれ少なかれ、日常の生活では見えない階段があって、深夜、ひとりでその階段を上がり、別次元の部屋で本当の自分と出会っているのかもしれない。そして未明、その階段の下り、朝目覚めた時には別次元の部屋の出来事を忘却している、そして何事もなかったように日常生活を始めている。時折、ふと、自分の生活に対して多少の不安や疑惑を覚えながら。

 この本は、日常生活では見えないその部屋を真正面から取り扱った小説だと言っていい。

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