眼前に書類が出された。何故か彼は打ちのめされた気持ちがした。一体全体何が書かれているか、強烈な光を浴びてオレンジ色ににじんでいて、解読不能だった。だが何としても解読しなければならなかった。一生をかけても。
もう五十年も昔の話である。彼はまだ解読出来ずに一日に三時間ないし四時間は書類を見つめている。オレンジの色は褪せ、今では灰茶色か、ところによっては限りなく黒に近づいている。確かにあの頃は若かった。十代だったか、二十代前半だったか。いずれにせよ、ほとんどすべてがオレンジ色だった。書類だけではなかった。心もオレンジ色だった。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。