この著者の長編小説「憑かれた女」を過日読んだが、今回は同じ著者のこんな長編小説を読んだ。
「アルクトゥールスへの旅」 デイヴィッド・リンゼイ著 中村保男・中村正明訳 サンリオSF文庫 1980年6月1日発行
この小説を理解するために、ぜひ「憑かれた女」に収録されているコリン・ウィルソンのリンゼイ論を読んで欲しい。彼はほとんど暗記するくらい何度もこの小説を読み、詳細にわたって分析・批評をしている。この論説が書かれたのは一九七〇年頃だがその時点では二十世紀最高度の小説だと評価している。
さて、「アルクトゥールスへの旅」が発表されたのは一九二〇年でこの著者の処女作と言っていいと思われるが、ほとんど評価されなかった。というより、彼は主要な作品を五篇書いているが積極的な評価を得ないままこの世を去っている。
この本を読み終えた時、私は若い頃に読んだショーペンハウエルの「意志と表象としての世界」とニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」を想起した。つまりSFの衣装を着て飾られた哲学劇だった。この世は快楽を求めて完結する世界だが、この世界とは別にもう一つの世界が存在していて、その世界は苦痛の中で自己を永遠に超えんとする世界だった。自己否定に自己否定を重ねて無へと至り、さらにそれさえ乗り越えんとする苦痛から出発する、一握りの少数者のために準備されている別世界だった。
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