砂の液体について

 ゆっくり動いていく。あれは何だ。

 砂の液体。砂の粒が結合しないで、それぞれの独立した形を取りながら、しかし一つの固まりになって、液体状に動いている。

 一つの固まり。そうは言っても、その固まりの果ては見えない。辺りはすべて砂の液体で構成されている。動いているが、もう一度言う、果ては見えない。

 音はしない。だが決して無音ではない。さらに言っておこう。観察していると、どうしても砂の液体音を想像してしまう。耳からではなく頭の中心部で鳴ってくる。無音であって、しかし音がしている。だから想像音とでも呼べばいいのか。

 一カ所、蟻地獄に似た穴が開き、そこから崩れ始めた。底は無かった。そこはかとなく。……脳の中心部で無数の悲鳴が鳴っていた。

 これでいいのだ、このままでいいのだ、液体状の蟻地獄を彼は見つめ続けた。

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