アントナン・アルトーの「神の裁きと訣別するため」を読む。

 神は黴菌だ、罵倒した男がいる。この男は一八九六年に生まれ、一九四八年にこの世を去っている。つまり、ヨーロッパの悲劇、というより今のところ人類最大のと言っていいが、第一次世界大戦と第二次世界大戦の闇の中を通り過ぎてすべての希望や精神のなせるワザ、その頂点に神などがこの世に出現しているのだろうが、そしてそれは人間の内面から出てくるものと言っていいのだが、それらすべてを切断し、断罪し、こういったいかがわしい器官などない外部に突き出た純粋な身体だけを愛したまま、この男はこの世を去った。ベッドに座ったままこの男は死体へと転化したらしい。外部へ身体を突き出したまま。

 読者よ。こんな男の本を読んだ。本は、この男の最晩年に書かれたものだった。彼の切断したのは「神」だけではなかった。例えば、この当時の権力の象徴、スターリンのソビエト、巨大な軍事力を誇るアメリカも、彼の身体から切断している。もちろん彼やゴッホを狂人だと診断した医者や、それの土台を支えている現代の精神医学も。あくまで耳に聞こえのいい「常識」へ引き戻そうとする彼等を。

 あとは読者よ。自分の目で確かめて欲しい。

 「神の裁きと訣別するため」 A・アルトー著 宇野邦一・鈴木創士訳 河出文庫 2024年2月28日5刷発行 

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