変な店だとは思った
とにかく
階段を下りて行った
そこは 地下街だった
いや
地下街というより
路地裏の狭い商店通り
商店といっても 見渡せば 果てしない 奥深い 安い飲み屋ばかりが
ずらり 門前に赤提灯をぶら下げたり
あるいは いかがわしい 紅や桃色の小さなネオンがチラチラ
チラチラ……でも 誰もいない 一枚の人影もない 無人 無音の狭い通り道
郊外の 住宅街の 芦屋という町に
こんな地下街があるなんて
数十年もここに住んできたが
ついぞ 彼は聞かなかった
そうだ 約束した 彼は変な店に行かなければならない
芦屋で開店しているのに<ヨコハマ>という名の店だった
そこに彼女がいるはずだった
「あたし ヨコハマってゆうお店 出したの」
はっきり 彼はこの声を聴いたのだった
「必ず行くよ」
<ヨコハマ>へ出かけた切り 二度と彼は帰らなかった
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