「百奇妙物語」紹介文の原案

 「泳いでいる」というテーマで書かれた百の物語を集成した作品集の紹介文。ここでは、この紹介文の原案をまずご紹介しようと思う。第一話は、「唇が泳ぐ話」。

 確かにその館に入れば、サウナ状態になっていて熱い水蒸気がモウモウと立籠め、無数のイソギンチャクが床や壁、柱・天井などにくっ付いて揺らめいている中、イソギンチャクの口の中から唇が出たり入ったりして室内を泳いでいる。観覧者の足首に大きなイソギンチャクが吸い付いて身動きができない状況になっているため、全身、唇に吸われたり噛まれたり、苦痛と快感に身震いして歓喜の悲鳴を上げている。そのうえ、ぴちゃぴちゃ血を啜られ、ゆっくりしゃぶられて、蒼白というか、真っ青というか。やがて全身収縮。観覧者は一千個くらいのイソギンチャクに分解して、新しい観覧者の足に吸い付いている……第一話の骨子はこのような次第だった。

 現在、二十三話まで出来上がっている。二十三話は「指が泳ぐ話」。

 簡潔にご紹介しておく。この話の主題は、指に足が生えて独自な一個の生命体として著者、つまり現在筆を進めているこの私の住まいのご近所、芦屋浜に生活している話。事実、毎日、芦屋の浜では、一本足から五本足くらい生えているさまざまな指、左手の人差指もあれば、右足の親指もある、それら指たちが砂遊びをしたり魚釣りをしたり。のどかな生活を営んでいる。日和がよければ、おおぜいの指が海水浴を楽しんでいる。私を含めてご近所の人たちには周知の事実。交流も生まれ、<指と共に暮らす会>も発足された。現在、指族生活特区として〇〇〇が国へ申請中だと聞く。多くの古い生命体が死滅・絶滅していく時代、せめて新しい生命体くらい大切にして欲しい。<指と共に暮らす会>の心からの願いである。

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