
視野が狭くなっていくのが分かった。このまま何も見えなくなるのだろうか。
最初、砕かれていた。微細に。いったいどうしたのだろう。すべてがゴマ状に破砕され、散乱していた。あたり一面、黒点、緑点、紫点、赤点、さまざまな色点になって虚空に混沌し入り乱れていた。しかし、だが、無音のままで。
驚いた。それがいきなり収縮したのだ。数秒後には、すべての色点がおおよそ直径三十センチ大の円形に収まっている。ひょっとして、これは、小さな円筒状のトンネルなのだろうか。無数の色点がうごめく直腸形トンネル。だとするならその果てはどこまで続いているのだろう。出口はあるのだろうか。色点が移動する別世界。解答がない疑問に彼は苛まれた。それはともかく、確かに彼の両眼には常にゴマ状色点が混沌するその小さな円形だけが浮かんでいるのだった。
いったい彼は何を表現しようとしているのだろう。三十センチ大の円形か。それともその内部にうごめくゴマ状多色物体の存在証明なのか。そしてその存在を一人だけでもいい、誰か他者に語りかけ、決して虚偽ではない、真実だと信じて欲しいのだろうか、彼という奇妙な存在者は。
けれども、ぜひ、この結末だけは伝えておきたい。少し信じがたい話になってしまうだろう。三十センチ大の円形はさらに収縮し、二つの目玉大に分裂したのだ。人間の目玉に酷似した存在。右の目玉と左の目玉。やはり目玉の内部にはゴマ状多色物体が渦巻いている。ここから先の話は、おそらく誰にも信じてもらえないのかもしれない。けれども彼は事実を事実として語らないわけにはいかなかった。
一瞬のことだ。右の目玉が破裂し、ほとんど同時に左も炸裂。二つの目玉はつぶれ、緑の汁になって、彼の左右の手のひらに垂れた。眼前の虚空には、もう、何もなかった。
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