薄皮物体の話

 薄皮をむく、あるいは、はがす、そんな作業が執拗に続けられている。よく見ると、薄皮で覆われた物体は人体の形状はしていたが、男なのか女なのか、それさえ判明しなかった。顔ばかりではなかった、体全体が薄皮で覆われていた。だからこの人体状物体は無毛でのっぺらぼうだった。

 紅と緑と紫の小さな長方形や三角形の薄片が物体周辺を取り巻くように宙を舞っていた。これらの切片は薄皮物体の一部をむきはがした結果、内部から噴き出してきたのか。いや、それよりも、既に違った状況に移行していたのだろうか。

 彼の記憶に残っていることといえば、四日前の金曜日、ある女と二人で夜の街を徘徊し、小料理屋から始まって、スナックをハシゴした思い出だけだった。生ビールやウイスキーの水割りはもちろん、白ワインのボトルを三本あけてしまった、そんな夜遊びだった。その後三日間、意識が途絶したり、スルウンとそれが頭の中で復旧していくのがわかった。

 こんな状況下、薄皮物体は、きのう、月曜日の未明に登場した。誰かがその薄皮をむいたりはがしたりしてその一部が破れたためか。それとも、寝室内で活動中にあちらこちらが破れてその裂け目や破れ目から噴き出してきたのか。赤や緑や紫の長方形や三角形の薄片が宙を舞っていた。それら薄片は余程軽量なのだろう、床には落ちないでいつまでも空中を漂っている。このままだと三色の薄片で満たされた無人の寝室が完成するに違いない。

 だったら、ひょっとしたら既に解体過程に入っているのだろう。そしてこの過程に移行したすべてのニンゲンは薄皮なのだろう、裂け目破れ目から内部の紅、緑、紫の薄片を尽きるまで周辺にまき散らしながら、ひたむきに消えていくためだけに。

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