
Mの頭はビヤホールのように大きくはない。けれど今夜も彼の頭の中におおぜいの人が寄り集まってきた。パーティーでも始まるのか。
いったいどうしたというのだろう。Mはゴルフクラブを手にしていた。十一年ぶり。彼はずっとゴルフを止めていたのだが。この十一年間というもの一度たりともクラブを手にさえしなかったのだが。
そのうえ、これはどうだろう。ここはゴルフ場じゃないか。だが妙な話だが、ゴルフ場といってもビルの谷間だった。ゴルフボールはコンクリートの街路をあちらこちら跳びはねて、まるで悪夢を見ているよう。彼は何度もギブアップした。確かギブアップの打数はミドルホールで12だったと記憶するが、しかしこのゴルフ場にはスコアカードがなかった。
人込みで何が何だかわからなかった。もうゴルフのプレーが終わって、ゴルフ場のレストランで表彰式のパーティーが始まっているのだろう。それにしてもすし詰め状態。神社の夜店で何か売っているのか十人余りの人間が口上をまくしたてている。その前を人間ソーセージが押し合いへし合いひしめきあって、左から右へ徐々に流れている。
口上をまくしたてている人間の中に不思議な女性が一人いた。Mは流れに逆らって、彼女の前に立ち尽くして、威勢のいい口上にじっと耳を傾けていた。でもこんな馬鹿な話があるだろうか。彼女の顔は数秒単位で変化するのだった。それは八十代から十代くらいまでのさまざまな女性の顔だった。そればかりではなかった。時折、男の顔に変化していた。だったら、AIだろうか。違う。それはあり得ない。Mの頬や唇は彼女の唾液で多少濡れていた。
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