力津耀子詩集「記憶のジグソーパズル」を読む。

 力津耀子さんから詩集が送られてきた。

 「記憶のジグソーパズル」 力津耀子著 発行所/さいけい舎 2025年8月15日発行

 まず発行日を見てもらいたい。終戦記念日である。初めて出版する詩集の発行日。私にはこの著者の深い思い入れを感じた。この日が記憶の原点だったのか。ここからジグソーパズルが始まるのか。

 この詩集は三章に分かれている。

 最初の章は、一九四一年の朝鮮半島、著者の生誕地から始まる。終戦になって家族一緒に本土へ帰国。想像を絶する旅であったろう。旅の途次、妹が亡くなっている。

 次の章は、帰国してからの思い出が語られる。幼少時代から家族のこと、夫婦になって、夫に先立たれ、養母の介護に追われ、彼女を看取り……さまざまな時空を回顧する作品が繰り広げられる。記憶のジグソーパズル。著者はそんな自分の心境を晩年こう語っている。

  「八十年もの来し方」の

  歳月に晒されて

  輪郭しか残っていないものや

  いまだ後悔しきりのなまなましいものが

  アト・ランダムにでてきて

  それぞれに

  認印を押せというのです

  切り取ったり

  張り付けたりしたとしても

  代わり映えするはずもないので

  めくら判を押しました(「眠れぬ夜に」第二連、本書102~103頁)

 そして最終章は、現在の一人だけの時間を唄っている。ひとりだけ残された春夏秋冬の季節を唄い、また、さまざまな人事を唄ってみたり。

 この詩集は、自伝詩集といっていいだろう。幼い頃、日本の敗戦で朝鮮から帰国したり、また、六十二歳で夫と死別したり、二〇一一年、介護していた義母を看取り、現在に至って、その記憶のさまざまな場面を思いつくまま語ったのであろう。痛切な時間を、わかりやすく、悲愴にならず、読者へ語りかけている。

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