色が変わっていく

 特段、これといって重要なことではなかった。従って、私は会社でも報告はしなかったし、家族に、実はこんなことがあった、そんな打ち明け話などこれっぽっちもしていない。

 だが、それでも、なぜか心の底では、うずくような心地。誰かさんにはなにもかも、あらいざらい、ぶちまけて身を軽くしてしまいたい、内面ではとても切実な気持ち。そうだ、とりあえず書き残しておこう、書けば少しはわだかまりも消え、身も心もスッキリするのでは……そんな次第で、夜半に目覚め、勉強机に座り、こんな文章を書きだした。

 余りくどくど、とやかく、語りたくはない。文飾を排して、真実だけを手短に語りたい。こんなことがあったのだ。……マホガニーに似た赤褐色の小さな棚。横に三列、縦に六段、一辺十センチくらいの正方形に区割りされているのだが、それぞれキャベツ状の物体が置かれている。全部で十八個あるのだろう。薄緑の直径五センチくらいの。こんなに小さくても、私は、キャベツだ、そう独り言ちているのだった。

 そのキャベツをじっと見つめていると、白く変色していくのが分かった。そればかりではなかった。先程まで赤褐色だった棚も白く変色している。こんな奇妙な出来事を他人に話したら、馬鹿も休み休み言え、鼻からたしなめられて取り合ってもくれないだろう。しかし、そうこうしているうちに、薄緑だったキャベツは、もう豚肉の白い脂身みたいな凝固物になって、ぶよぶよ震えている。

 棚全体がずるずるになって、ぷるんぷるん小刻みに振動し始めた時には、画面全体に波が走って白濁し、故障したのだろうか、何も見えなくなってしまった。

 私は随分迷ってしまった。この覚書の題は、最初「何も見えなくなった」にしようと思いながら、待てよ、こうしよう、ああしよう、これにしよう。あれこれ頭に思い浮かべて。ヨシ。「画面の波の果て」。いや待て。そうじゃない。そうだ。これでどうだ。あっちこっち逡巡したあげく、あらゆるためらいを捨てて、これに決めたのだ、すなわち、「色が変わっていく」。

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