
<Ⅰ>
メールが入ってきた。契約がしたい、そう言ってきている。だが、その物件の所有者が明記されていないばかりか、依頼者も不明だった。
こんな契約の申し込みなんてほっておいていいのだろうが、なぜかMにはなんとなく気にかかってしまった。契約がしたい、この一行と、物件名だけが記載された、ほとんど空白の申込書。
物件名は「無機物生命体No.XRファイル」となっている。
そもそも無機物に生命が宿るのだろうか。Mは沈思黙考した。石や砂にも生命が宿っているのだろうか。岩石に足が生えて、いきなり移動する……しかしこの申し込みから憶測すれば、そんな研究が既に始まっているのかもしれなかった。
まだメールの申し込み画面をMは凝視していた。Mは知りたかった。地球の生命体を超越する存在を。十本足で歩行する岩石。人間の思考能力を圧倒する砂漠生命体。ちょっとステキじゃないか、年甲斐もなく彼の心はときめいていた。
<Ⅱ>
信じがたい話があった。
昨夕、近所のスーパーで買って冷蔵庫に入れておいたリンゴが、門前で転がっている。二個買って、昨夜、一個は既にすりつぶして食べてしまった記憶はあるが。普段ならMはそのまま皮ごとかじってしまう習慣だった。どうしてすりつぶすなんてことをしたのだろうか。今になってみれば、その理由が判然としない。どうしてなんだ。
もうそんなことなんてどうでもいい。オレの思考なんてこの世の塵だ。ゴミだ。この世には無数の思考があって、無数の塵やゴミが地上を移動している。そうじゃないか。確かにゴミを出すのがニンゲンの大きな特長じゃないか。そればかりか、そのゴミの後始末もちゃんと出来ないのが。オレも奴らも無用の宇宙ゴミさ!
話がつい横道にそれてしまった。オレはリンゴの話をしていたんだっけ。
そうだ。このリンゴ、我が家の門前で転がっているこいつ、こいつはどんな方法を駆使して冷蔵庫から脱け出し、路上で一晩眠っていたのだろう。もう朝じゃないか。
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