
誰かいたのかもしれない。気配だけはした。
さまざまな顔が脳裏に流れては、消えていた。
だが、この気配は彼等の顔ではなかった。
では、いったい、誰の顔だろうか。見えない顔。だったら、自分の顔じゃないか。自分では自分の顔は見えないから。
ちょっと待ってくれ。そもそも、果たして、顔だけの気配なぞこの世にあるのだろうか。どうだろう。自分の顔の気配。じゃあ、もし、それがあるとするなら、やはり、Mの首から下は既に崩れ落ちて胴体の気配は消えているのだろう。何故って、顔より胴体の方がキツイ臭いがするじゃないか。
ここまでくれば、せんじ詰めれば、最後はとても恐ろしい結論になってしまうのだが。それでも、あなたには真実を告げて、この手紙に封をして、あした投函することにしよう。
こうだ。これが結論だ。
最初に報告した通り、見えない顔の気配がするというなら、この自分の顔だけは、つまり、最近姿を見せないMの近況のことだが、既に両耳は肌色の粉になって崩れてしまった彼の胴体のない顔だけはまだ寝室のどこかにぼんやり浮かんでいる、死体に近い臭いを漂わせて、ほとんど剥がれ落ちそうな微笑で皮がしわくちゃになりながら。
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