
腐ったものを全部、吐き出したい。私もそんな年齢になっていた。愛しあった女を喪ってそろそろ十二年になるのか。七十五も超えてしまって。節々が痛みを覚えるばかりではなく、その周辺が腐り始めて来たらしい。腐肉を除去する手術をするかどうか。特に夜ベッドで仰向けになった折、くよくよそんなことを思い悩む日々が続いた。暗い気持ちが揺らめいていた。
だからといって、特段、足腰が弱くなったなんて、そんなふうには思えなかった。まだまだ体はピンピンしてる、そんな確信さえあった。それなりに年を食っているとは言っても。歩数計には毎日、八千歩前後の数字が刻まれてはいるし。三食昼寝付き。贅沢な生活じゃないか。先生。どう思う。
ただ、やっぱし、七十年以上もこのせち辛い世間に身をさらしてきたので、体のあちらこちらが腐っているって診断されても、それはそれで納得している。先生の言う通りだ。致し方あるまい。だって、そうじゃないだろうか。例えば、右ひじ、左足関節、太ももの付け根、あるいは尻の穴周辺がかなり腐っているじゃないか、先生からそんなご指摘を受けたからって、いまさら悲観する気はさらさら持っていない。
変形するのは仕方ない。そりゃあ、腐った部分にメスを入れて取り除き、ゴミ箱に捨てるんだから、体のあちこちが変形するだろうが、いやはや、そうなんだ、孤独死に徐々に近づいたこんな体、なんの未練もない。誤って心臓にメスを差し込んだって、先生、どうか自分を責めないで欲しい。私には大歓迎なんだから。遺書にそう書いておく。
全身、こんなに腐って、腐った部分を切り外して、変形して、もう昔の面影なんてどこにもないけれど。無事手術も終わって、よくなると思ったけれど。
何故なんだ。体全体はこんなにも静かなのに、頭の中だけはくるくる回転して。首の穴から頭骨の内部に向かって黒・緑・紫・爛れた紅、さまざまな液や汁がほとばしり出ている。いったい何故なんだ。
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