
残念ながら、この作家の本を読むのも、これが最後になるのかもしれなかった。
「パニッツァ全集 Ⅲ」 オスカル・パニッツァ著 種村季弘訳 筑摩書房 1991年9月25日初版第1刷
これでこの作家の全集全三巻を読み終えてしまった。発禁、弾圧、牢獄生活、亡命、精神病院に隔離中、死。
精神科医であり、かつ、精神病患者。ノイズ(幻聴)が聞こえ、迫害妄想に追い詰められる。生命体が奇妙な物体へと幻像化する。
多くの原稿が散逸・破棄されている。従って、この作家の一部分だけが全集として残されている。つまり、私が読んだのは、全集とはいえ、従って、一部分にすぎない。
本号ではパニッツァの年譜から収録作品の解題、解説では最終巻にふさわしく翻訳者のパニッツァへの思いが語られている。合言葉は、「犬」。西洋の「犬」の歴史が興味深く表現されている。一読いただきたい。
それはさておき、パニッツァに限らず、多くの読者をつかむことは出来ないが、ひそやかに、マニアックに、生き続ける作品もあるのだろう。私はそれを否定しない。だって、今回読んだパニッツァもその系列の作家だから。
だから、そんな作品は、こんな一面を持っていはしないだろうか。
極めて大雑把な言い方になってしまうが、与えられた時代に人々が生きていく方向として、ふたつの方向があるのじゃないだろうか。ひとつは、この世の秩序を受け入れて暮らしていく方向。もうひとつは、逆に、この世の秩序の在り方を否定して暮らしていく方向。この二方向があるとすれば、パニッツァは明らかに後者、この世の秩序の在り方を否定する姿勢を貫き通した希少価値のある生命体だったろう。
従って、残された作品群は時の秩序に迎合しなかった貴重な作物として、その当時の秩序が崩壊した後も、まだ生き続けているのだろう。
時代を超越する作品を書くことは、いまさら言うまでもなく、困難であり、苦行あり、ほとんど理解されず相手にもされず、孤独ではあろう。ささやかではあるが、社会の片隅で、ほんの一部の人に評価される栄誉を残して。
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