
ボクの友達で宗教に肩入れしている男がいた。肩入れ? いや、むしろハマってしまった男だった。ボクは思うのだが、おそらく彼にとっては信じている宗教が絶対で、ボクのような無宗教のニンゲンは批判する対象の生命体だったろう。直接彼に問いただしたわけではないが。そんなの、七十も超えて、いつ棺桶に横たわるかもしれない身分なのに、いまさら議論してもつまらないから。おたがい、余程のことがない限り、変わりっこないのじゃないか。ボクはいまさら十字架も数珠も手にしたくない。無宗教だもん。
それはさておき、ある日、彼がこう言ったのを鮮明に記憶している。
―TON。おまえってやつは、神を信じてないな。だから、命の大切さなんてこれっぽっちも感じていない。この宗教に入信してから、オレは、ニンゲンはおろか、虫一匹殺せないよ。
ボクは心配なまなざしで彼の顔を見つめていた。なぜって、彼の右頬に蚊が一匹とまっていたから。やにわに、彼の右手のひらがそれを叩きつぶした。
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