YOUはここにいる

 第一章

 芦屋川沿いにあるもっとも古い公園、と言えば、地元の人なら、あああの公園か、すぐにその公園の名前が口をついて出て来るに違いない。それでも、地元の人であってさえその公園の裏側、その辺りに何があるのか、腕組みをして、ふむ、裏側にまで回った記憶はない、眉間にしわを寄せ、首を横に振るのではないだろうか。

 裏側には、五メートルぐらいある高い塀で囲まれた二百坪ほどの地所がある。中は見えない。北東の狭い路地裏側に鉄扉があるが表札はない。その辺りはこの高い塀だけで人気はなく、この塀は、言ってみれば、密室の空間だと言えた。わずかな人ではあるが、この空間内部を訪れることが出来た。この寂々とした空間の中央あたりには、いまにも崩れそうな床面積五坪程度の平屋が建っている。

 この平屋の地下にスナック<ヨコハマ>がオープンした、そんな噂を彼は耳にした。このスナックは数年前まで芦屋の地下街の裏通りで営業していた。ところが、台風による高潮で床上浸水までの被害が出たため、この地下街は防災対策のため取り壊され、埋め立てられた。その後、スナック<ヨコハマ>の行方は知れず、音信不通の状態だった。

 ある女を、つまりこのスナックのママだが、三年間尋ね歩いた末、三宮のセンター街でばったり<ヨコハマ>のかつての常連客と出会った。この男から、例の公園の裏側にある高い塀の中の話題が出た。「お前もあのママに会いたいんだろう。あの塀の中には小さな平屋があって、その建物の地下にスナック<ヨコハマ>がオープンした。お前なら会員に推薦するぜ。きっとママも大喜び、それくらい、お前たち二人、深みに落ちそうな気配がしてたぜ」

 スナックとはいうものの、むしろ秘密クラブだといってよく、わずかな会員、まだ六名だが、彼が入会すれば七名の会員で今のところ成立するクラブだった。初期会員の特典は、入会金が五百万円で済むことだった。三か月後からはその三倍になる、そんな話も彼は聞いた。そして、オーナーはやはりあの女、スナックのママ、本名は明かさない、YOUと呼ばれている女性だった。彼は即座に入会した。

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