悲哀

 風のいたずらだろうか。思わぬところまで飛んでくるものがある。毎朝、庭掃除をするのだが、けさは常ならず異様な感慨を彼は抱いた。

 確かに今まで、さまざまなものが飛んでくるのだった。冬になれば、家の裏の街路樹からわざわざ枯葉がどっと我が家の庭をにぎやかにしてくれるのだった。ビニール袋や破れたゴム風船がやって来ることも。けれども、けさは、今までの飛来物とは一線を画し、先述した通り、彼に異様な感慨を抱きしめたのだった。

 おおよそ直径二センチ大の球状物質。嚙み捨てたチューインガムだろう。それにしてはいささか大きすぎるのではないだろうか。直径二センチ大。門柱に取り付けてある郵便受けの上に乗っかっている。何故こんな場所に? 何故? 風で飛んできたのか。そのうえ、さらに異様な光景に彼の胸は打たれた。

 この球状物質に垂直に一本の煙草が立っていた。吸いガラでも吸いさしでもなく、真新しい煙草。吸い口をチューインガムの表面から差し込んで、一本、垂直に屹立している! こんな物体を風が運んできたのか!

 いや、待て。風だろうか、いや、違う、ひょっとして誰か、人間のイタズラなのだろうか。もしイタズラだとしたら、煙草がらみなので、犯人は大人、あるいはそれに近づきつつある青年ではないだろうか。それにしても不思議な想像力を持っている人だろう。かなりの量のチューインガムを噛んで直径二センチ大の球状物にしてその上に一本の煙草を立てる作品。

 庭掃除の箒の手を休め、この作品をじっと見つめていると、ふとこんな言葉が彼の口から洩れていた。生きているって、トテモ悲しいな。

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