亀とこの家で二十二年

 昨夜は行きつけのスナックで九時過ぎまで飲み、一昨夜訪れたスナックへと流れた。ある事情があった。言うまでもなく、夜遊びの他愛ない事情ではあるが。しかし私のような低劣な男には、他愛ない事情の中で自分なりに生きているのだが。

 いつもより早く十一時半ごろ帰宅。余程疲れていたのだろう、目覚めたら今朝の八時になっていた。

 きょうは土曜日。亀の池を掃除する日。池を掃除しながらこんなことを考えていた。

 この家に引っ越してきたのは、きょうから丁度二十二年前の四月二十六日だった。いま、私は亀の池を掃除しているが、あの時は引っ越し作業をしていたのだった。

 家を買ったのは衰えを見せ始めた私の母と同居するために、妻が見つけてくれたのだった。トンちゃん、この家ならお母さんと一緒に住めると思うよ。母も喜んでくれた。いろいろ事情があったにせよ、母は初めて、えっちゃん、ありがとう、そう言ってくれた。やはり、これも他愛ない事情に過ぎないのだけれど。

 しかし、母は入院し、その年の五月三日に永眠した。この家に一度たりと寝ることもなく。

 私は妻とこの家で十一年暮らした。楽しい日々だった。ますますたがいに愛しあっているのがわかった。そして、妻もこの世を去った。また、十一年が過ぎた。二人で暮らした同じ歳月を、私は一人でこの家に住んでいた。

 やはり私は低劣な人間だ。こんな他愛ない事情こそ、私にはとても大事だった。

*写真は、我が家の庭で遊ぶ亀。ツツジも咲き出した。朝夕はまだ肌寒い日が続いているが、春だった。

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