結末不明

 最近何かがおかしいと彼は思うようになっていた。特段その何かが、いったい何であるか、執拗に追及する意志などさらさらないのではあるが。だから、とりあえず、何か、だけつぶやいて、それ以上の中身は棚上げにしていた。

 それでも、時折、たまらなく気になって仕方なく、腕組みしながら復唱していた、いったいこれって何だろう。さながら重たい荷物を背負い続けているように、心の底を踏みつけて、一向はばかりない、こいつ、この何かは? 誰かの足だろうか。そんな馬鹿な。それじゃあ、心の底で得体のしれないものがひそかに成長しているのだろうか。もうどれくらいの日数が経つのだろう。すっかり大きくなってしまったのだろうか。オイ。大丈夫か。体を破って飛び出してこないだろうか。

 夜の診察室で彼は上半身裸になっていた。聴診器を左胸に当てたまま笑みを浮かべその人は、かなり成長していますね、診断を下した優しい声を彼は耳にした。ベッドに仰向いたまま寝転んで、そう、そのまま、しばらくじっとしていてくださいね。

 しかしこれはあくまで噂話に過ぎない。だって、もともと医者嫌いの彼がわざわざ診察室まで足を運ぶなんて、ちょっと想像もつかないではないか。だけどあの女医さんに恋をしてるって噂は。まあ、いい。余り詮索するな。物好きな奴だなあ、お前って奴は。ところで、な、こないだいきつけの居酒屋でこんな噂が出てきたよ。あいつ、あいかわらず夜の街を彷徨して浴びるほど酒を食らっているなんて、こっちの方の噂はどうだろうか。いや、もっと違った噂もあれこれ流れている。じゃあ、ほんとのところは、まだ不明なんだ。ちぇっ。無駄な時間を取らせやがって。まったく酒の肴にもなりゃしないじゃないか。この野郎。とんだ野郎だ。女将さん、この純米酒、けっこうイケるじゃないか。

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