ほんとのリカ

「ヤミオ。たまには、お食事、どう?」

 久しぶりにリカからラインが来た。

 闇男はいつものセカンドバッグを手に、玄関を出た。

 皿が出ていた。テーブルの上だろうか。置かれている場所があいまいだった。ボンヤリしていた。けれど外部がボンヤリしているのか、闇男の頭の中がボンヤリしているのか、判然とはしなかった。もうそんなこと、どちらでもいいんじゃないか。ボンヤリだらけでも。

「ここよ。ここでもう少し待っててね」

 リカの声がする。それじゃあ、ここに間違いはない。じゃあここはレストランだろうか。まさか。ひょっとしたら彼女のマンションのダイニングルームでは。だから俺は興奮して、頭の中が燃えているのでは。両耳の穴から煙が出ていたりして。

 それにしては辺りがボンヤリを通り越して、ゆっくり波うっている。あちらこちらの空間にしわが寄って波紋が揺らめいている。いったいこりゃなんだ。まるで水中生活者ではないか。リカよ。早くおいで。俺を抱きしめてくれ。彼は煩悶し、覚えず叫んでしまった、リカ!

 だがしかし、先程から闇男に見えているのは、あの一枚の皿だけだった。直径三十センチに見えるときもあるが、波になってうねりながら広がっていき、一メートルを優に超えて拡大している。皿の円周には三十センチからややもすれば一メートル余りの髪の毛が生えていて、まるで水泳のバタフライのようにクネクネして空中を泳いでいる。そして皿の中央には唇がある。それが開いた。

「ヤミオ! ツルヤミオ! あたしよ。わかる。リカよ。これがほんとのリカよ‼」

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