
こんな長編小説を読んだ。
「競売ナンバー49の叫び」 トマス・ピンチョン著 志村正雄訳 サンリオ文庫 1985年10月15日発行
この作品は、通称ムーチョという男の妻エディパ・マース夫人がかつての愛人で大富豪ピアスの遺言執行人になり、もちろんそれはエディパの意志ではなく故ピアスが決定したことなのだが、共同遺言執行人メツガーと遺産の調査・確定作業を始めるところからこの物語は始まる。
私はわざわざ下手な内容解説をするつもりなんてさらさらない。いくら説明しても、読まない限り、作品は分からない。当たり前の話だが、そして基本的にはすべての経験がそうだと思うが、例えば小説の場合で言えば、作者と読者の一対一対応の世界だった。
けれど、ちょっとした感想くらいは述べてもいいと思う。この作品はエディパの偏執狂的夢魔の世界を描いている。あるいはこういっていいのか。悪夢の中を彷徨する、そこから逃亡しないで恐怖旅行を続けていくある女性の姿を描いていると。まるでギリシャの古典に出てくるオデッセイやオイディプス王のごとく。
エディパは言う、
「真の霊能者っていうのは人間の幻覚を共有できる者のこと。それだけの話。
幻覚を共有できたら何てすばらしいことかしら。」(本書135頁)
余談になるが、この小説に登場する精神科医ヒレリアスは研修生時代もともとナチスに協力した医師で、ユダヤ人の虐殺に手を貸している。しかし戦後、精神科医としてユングを選ばず、ユダヤ人のフロイトを基本にしてスタートをしている。アウシュビッツで何百万人ものユダヤ人がガス室で灰と煙になっただろう。贖罪の結果か、彼は発狂する。
思えば、二十世紀を揺り動かした思想家マルクスもユダヤ人。文学ではカフカもユダヤ人。シュルレアリストに多大な影響与えた革命家トロツキーもユダヤ人だろう。ちなみに彼はメキシコで暗殺された、スターリンの手の者に。そういえば、この小説のバックボーンになっている画家レメディオス・バロは、スペインで生まれているが放浪の末、最終の地はメキシコだった。これらすべては、何か裏の闇でつながっているのか。二十世紀の悪夢だろうか。エディパの妄想の如く。
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