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薄暗い廊下をたくさんの女性が列をなして歩いていく。Mはその最後尾で彼女たちの後をついていく。みんな廊下を右に曲がっていくが、彼の前を歩いている女だけはそのまままっすぐ歩いて突き当りの部屋に入っていく。彼は迷った。さて、どちらの後に付いていけばいいのだろう。ヨシ。あの女の後を付いていこう。
部屋の中は椅子があちらこちら乱雑に置かれていて、どの椅子にも女が座っている。でも、どうやら、先程の女はいないようだ。部屋には出口が見当たらないが、それなら一体どこへ行ってしまったのか。一瞬にして消えてしまっている。はたして数十人いるのだろうか。誰もおしゃべりしない。森閑としている。彼女たちはマネキンだろうか。まさか。それじゃあ静かなお化け屋敷じゃないか。
ひとりひとりの顔を確認してあの女を探していく。おそらく彼女たちはマネキンではないのだろうが、無表情で虚ろな目をしている。動かない。また、動こうとしない。彼の存在に気が付いていないかのごとく。あるいは、完全に無視しているのだろう。やはり、あの女はいない。ただ、見知らぬひとりの女が彼を見つめているような気がしてならない。やっと興味深い女と出会った気持がして、真正面から彼女と向かいあった。
不思議な顔だった。穴が二つ開いていた。彼女の両眼の穴の向こう側に明るい部屋が見える。チーク材のテーブルと椅子が置いてあり、誰が座っているのか、こちらからは判然としない。後頭部と背中だけが見える。先程の女だろうか。彼女の両眼の向こうにはいったい誰が住んでいるのだろうか。ここまでやって来たんだ。それならば、俺はどこまでも行こう。意を決して、Mは右眼の穴の中を歩いていく。足を踏み入れるなり、いきなり照明が絶えてしまった闇の通路を。
Mの自宅の前には西から東へ一本の道が走っている。帰宅するため西の方から歩いていると、彼の左にご近所の女が歩いている。何か話しかけてくるので、彼もこんなお願いをしてみた。
「あなたの眼を、ちょっと見せてもらえませんか」
彼女は足を止め、顔を彼の両眼のすぐそばへ近づけた。彼女の甘酸っぱい息づかいが、彼の唇に流れている。
「あなたの眼には穴が開いていない。あなたの眼の向こうには部屋がない。どうしてあの女の眼の穴の向こうには明るい部屋があるのだろうか」
「M、まだわからないの。お馬鹿さんね。ごらん。わたしもリカよ。そうよ。すべての女は同じリカであって、だから、それでも、リカじゃないの。みんな同じだけど同じじゃないの。わかる。同じじゃなくって、ただひとりで生きているの。それがリカの正体よ」
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