作られた人

 長い間、人混みの隙間を縫ってチョコチョコ飛び跳ねて暮らしていた。十メーター幅くらいのアスファルトの道路を挟んだ商店街のアーケードの下を。

 数日だったか、それとも数か月か数年か、いや、数十年か、どれくらいの歳月が過ぎていたのか、そんなことなんてどうでもよかった。そもそもMに時間感覚があればこんな商店街なんて歩き続けるわけがないじゃないか。毎日毎晩同じ商店街のアーケードの下をさらに遠くまで歩き続けていたことだけは確かだったんじゃないか。というのも、いつも同じお店の前を歩いているようであって、でもその日によってちょっとだけ景色が違うんじゃないか、そんな思い出のアルバムが脳裏にたくさん保存されていたから。

 あれッ? きょうは人っ子一人いない。今まで続いていた人混みはどこに行ってしまったんだろう。どこに消えてしまったんだ。いつもと変わらないアーケードの下を歩いているのだが。商店街はどこまでも続いているが、人ゴミどころか、犬も猫もネズミ一匹いない。一羽のスズメだっていない。Mの足音や咳払い以外、辺りは無音。静かだ。おそらく虫一匹いないのだろう。それに、商店街の扉も窓も閉ざされている。だったら、これは商店街の形をした巨大な模型の世界ではないか。

 もちろん、模型の世界では食料品も一滴の水もプラスチック製品だった。ここにきて、やっと気が付いた。ずっと生活してきた商店街の時間や空間をMはこう述懐したのだった。長い間、オレは模型の世界を歩いていたのだ。それじゃあ、つまるところ、オレも模型だったんだ。バカな奴さ。ホントに、おバカさんさ。気づくのが遅かった。オレって、一事が万事、そうだったんだ。気づくのが余りにも遅かったんだ。

 けれどMは誤解していた。結局、彼の誇張癖はいつまでたっても改善されはしなかった。というのも、Mって呼ばれている男性の高齢者は昨夜組み立てられたばかりの新型プラモデルだったから。

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