今年は年初から、「危険な関係」、「クレーブの奥方」に続いて、私はさらに恋愛心理小説の名作を読み進んでいたのだった。
「マノン・レスコー」 アベ・プレヴォ作 杉捷夫訳 「世界文学全集」Ⅱ-4所収 河出書房新社 昭和39年7月10日初版
この作品の根本的な主張は、これだ。
「われわれの最大の幸福が快楽のうちにある……すべての快楽の中で、いちばん楽しいものが恋の快楽だ」(本書228頁)
将来を約束されていた名家出身の主人公シェヴァリエ・デ・グリュは上述の根本的な信念を貫いて、マノン・レスコーという女性にすべての将来の栄光を投げ捨て恋の情熱を捧げ尽くす。
だが、マノン・レスコーは彼への手紙にこう書いている。
「パンを不自由にしている時に、ひとは愛情を持つことができるとお思いになりますか?」(本書208頁)
シュヴァリエとマノンの根本的な心の在り方の違い、その違いはわずかではあるが、二人の恋情が余りにも深い故に、激しい転落を重ねて、ついに破滅する。詳しいいきさつは直接本書を読んでいただきたい。
この作品は、一七三一年、著者三十四歳の時に書かれたものである。家族や社会的身分や財産などをかなぐり捨ててまで恋に生きる徹底した個人主義者の男の物語が、十八世紀前半にフランスでは見事に完成していたのである。
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