ベックフォードの「ヴァテック」

 私が二十五歳の頃に「幻想と怪奇」という文芸誌が出版されていた。この文芸誌は、創刊号が一九七三年四月一日に三崎書房から出版され、第二巻以降最終刊の第十二号までは歳月社から出版された。この最終刊は一九七四年十月一日に発行されている。この号の奥付には、「事情により一時休刊させて頂く」、そんな挨拶文が掲載されているが、その後、私の記憶に間違いなければ、復刊されていない。

 世の中の動向に疎い私にとって、「幻想と怪奇」が世間でどの程度反響があったのかは知らない。ただ、例えば、一九七三年十一月一日に発行された第四巻でアルフレート・クービンの絵画が紹介され、早速クービンの唯一の小説「対極」を購入、感銘した記憶は、今でも新しい。

 数日来、「幻想と怪奇」の掲載作品で二作を私はブログで紹介した。それはカゾットの作品で、「悪魔の恋」と「猫の足」だった。なぜカゾットを選んだか、そのいきさつも簡単に書いておいた。

 きょうは、ゴシック文学の名品をご紹介する。

 「ヴァテック」 W・ベックフォード作 中村浩巳訳 歳月社

          「幻想と怪奇」第五号 1974年1月1日発行

                 第六号 1974年5月1日発行

                 第二巻第二号 1974年6月1日発行

                 第二巻第三号 1974年7月1日発行

                 以上四号にわたって連載。

 言うまでもなく、「ヴァテック」に関して下手な解説はいらない。読みさえすればいい。背教者の世界、この世を全否定してソロモンの財宝を探求する異邦人、この異邦人の織りなす豪華絢爛な悪夢、紅く熟れた虚無の果実を、読者は観劇するだろう。

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