月光仮面

突然、誰かが扉を叩く。≪遂にやって来たな!≫ 純白の寝台からずり落ちてぼくは床に尻餅をついてしまった。と同時に、パッとズボンが裂けてしまったのであわててコートを引っ掛け、やけっぱちに扉を蹴りあげる。がむしゃらに飛び出した拍子に踊り場で月光菩薩と正面衝突した。彼女は睡蓮のような裸体ですんなり立っている。ぼくは恥ずかしくなって彼女の肩にコートを掛けながらそっと乳房に接吻した。ふとズボンの裂け目を思い出し愈愈恥ずかしくてメリヤスの糸屑を引ッぱりながら、まるで太陽のように真っ赤になってしまった。それから、ぼくらは黙って座り込み、思わずプッと吹き出した。

*この作品は、二十二歳の時に書いたものです。その当時の原稿が出てきて懐かしく、送り仮名などの細部を訂正してほとんどそのまま発表しました。

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