どうしてこれほどまでに穏やかな気持ちなんだろう。既にここまで追いつめられて、逃げ場はもう十歩たりとも背後に残されてはいなかった。
確かにそれが事実なんだろう。また、この期に及んで、まさかこの事実から目をそらそうなんて思いもよらないことだった。だがしかし、意外にも彼の心はしんと静まりかえって、清らかな水さえひたひた流れていた。
彼は内面に流れているその川をじっと見つめている。結局、彼はこんなふうに結論していた。川が海へ流れてひとつになるように、内面から外界へ、脇腹に開いたこの一センチ大の穴から清らかな水がまっ赤に染まってあふれで出て、土へ帰るのだ。そうだ。わたしは赤い水になって散る。さも何事もなかったかのごとく。
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