ペトロニウスの「サテュリコン」を読む。

 こんな本を読んだ。紀元65年ごろ、ローマ帝国のネロが皇帝だった時にその側近によって書かれた作品だった。

 「サテュリコン」 ペトロニウス作 国原吉之助訳 岩波文庫 2023年7月27日第9刷

 男や女たちが織り成す性欲や食欲などの快楽の極北を描いた妖しくグジャグジャした世界だった。奴隷や解放奴隷、得体のしれない男や女が入り乱れていた。古代ローマ文化が爛熟して腐乱の花を咲かせたのだった。権力闘争の中で近親婚や暗殺、反乱者と疑われれば自殺に追い込まれた、そんな時代だった。この作品の作者も、自殺によって生涯を終えている。私はかつて読んだシェンキェーヴィチの小説「クオ・ワディス」でこの話を読んだ記憶がある。深刻な自殺ではなかった。友人たちと歓談しながらこの世を去っている。「サテュリコン」のような作品を書いた作者は住んでいる世界が違うのだろう。面目躍如たるものがある。訳者の懇切な解説にはペトロニウスの最後を描いたタキトゥスの「年代記」が翻訳してある。ぜひこの文章も読んでいただきたい。

 本書に収録されたもう一つの作品、セネカの「アポコロキュントシス」もこの時代の文学、皇帝を中心にして成立している社会の中から生まれてくる文学の典型として、私は楽しませてもらった。このセネカも初期のネロ皇帝の側近であったが、ペトロニウスと同じく自殺によって生涯を閉じた。

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