春の七草のひとつ、ハコベは小さな白い星の形をした花を咲かせる。可憐な花。この花の名を題にした詩集がある。
「ハコベの唄(うた)」 西山光子著 澪標 2024年3月31日発行
名は体を表すというが、この詩集全体に流れているのはまさに「ハコベ」の小さな花の命だった。
詩集は四つのパートに分かれている。第一のパートは「コロナ下を生きて」。十篇の詩で構成されている。第二のパートは「思い起こせば」。三篇の詩。またこの三篇の詩はそれぞれ四作品、二作品、二作品でまとめられている。第三のパートは「やまももの木」。ここには七篇の詩が収録され、最後のパート「ハコベの唄」には七篇の詩。
詩集の題にもなった作品「ハコベの唄」の第三連をご紹介する。チューリップの球根を植えていた庭を春になってハコベがいちめん土を這って覆い尽くしている。もうすぐ開花するチューリップのために詩人はこの雑草を引き抜こうとして、ふと手を止めた。こんな言葉が聞こえてくるのだった。
そのとき小さな声を聞いた
「お願い もうちょっとだけ
このままにしておいて
わたしたちにも
いのちがあるのです」(本書78~79頁)
この詩集は全編にわたって社会の片隅にささやかではあるが、そっと芽吹いている、生きとし生けるものへの愛情を平明な言葉で刻んだ作品群だった。
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