「彼女」第三章

 そういうわけで、同じ趣味で知りあった者同士の飲み会で彼女と出会うまで、繰り返しになるが、私は女性と触れ合うなんて及びもつかなかった。初めて二人で飲んだあの夜以来、二日か三日おきには甘いささやきに近い言葉をラインに書き込みあった。まるで中学生か、せいぜい高校生だった。一気にうん十年若返って、まるで青春時代を生きているのだった。ひょっとして恋愛感情は歳には関係なく、普遍性があるのではないだろうか。愛は永遠だとよく言うが、あながち否定できないのかもしれなかった。おたがい年甲斐もなく思いもよらない甘い言葉を書きあっては、ウットリしていた。もう一度会おうね。うん。

 彼女は若い時に離婚して子供を育て立派に社会へ送り出している。私は十年前に妻を喪っているから、二人は独身だといえばその通りだった。最初に二人だけで飲んだ夜から十日後、居酒屋「正夢」でまた落ち合った。夜の六時から九時頃まで飲んだ。その足で近くのスナックへ足を運んだ。誰もいない。ママ一人がカウンターの奥に立っている。

「よかったわ。団体のお客さんがいま帰ったとこ。ゆっくりしていって」

 カウンターに並んで座った。彼女は左側。キープしているボトルで水割りを飲んだ。ママにも注いで、三人で乾杯をした。二人とも居酒屋でかなり酔っぱらってしまい、すっかり出来上がっているのに、さらに水割りを飲みながらカラオケで何曲もデュエットした。ママがお手洗いに立った時、マイクを手にしたまま、見つめあった。彼女の唇が私のそれに重ねられていた。

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