トロツキーの「永続革命論」

 先日、トロツキーの「スペイン革命と人民戦線」を読んでいて、スペイン共産党はスターリンが主導する第三インターナショナルの人民戦線の戦略、まずブルジョア革命を達成してから社会主義革命を目指す所謂「二段階論」を採用してスペインの共和政府の下でブルジョア革命を確立するため、カタロニアを中心にして労働者が立ち上がり封建制と同時にカトリック及び私有財産制を廃止、そこから人民を解放して自由・平等を実現せんとした労働運動の組織を「トロツキスト」として弾圧、多くの組織員を検挙、指導者を虐殺した疑いがある。スペイン革命が敗北し、フランコ率いるファシズムが勝利した一因として、革命の主力となっていた労働者を弾圧した第三インターナショナルの戦略を、トロツキーは緻密に分析し批判していた。

 こうしたわけで、私はさらに進んで、トロツキーの考え方を学ぼうとしたのだが、二十世紀の資本主義時代を、幼年期・少年期・青年期・中年期を通して生きてきた人間であってみれば、もちろん晩年期、二十一世紀の初頭も日本はまだ資本主義ではあるが、私にとっては当然の成り行きだった。というのも、私が生活した資本主義世界を深く理解するには、資本主義はトテモ良い制度だとしてそれを維持・改良しようとする考え方と同時に、それを否定してもっと素晴らしい世界の可能性に向かって命を賭して追求した人々の考え方も知っておくにこしたことはあるまい、私はそう判断したからだった。

 「永続革命論」 トロツキー著 森田成也訳 光文社古典新訳文庫 2017年10月10日初版第2刷

 この本は一九二四年に提出されたスターリンの「一国社会主義論」を批判し、一九〇五年の第一次ロシア革命が勃発した時にペテルブルクで発生したソヴィエトを指導したまだ二十代半ばだったトロツキーが、その革命を前後して確立した革命思想「永続革命論」と対置し、世界革命を否定する「一国社会主義」の路線によって一九一七年のロシア革命により建設された社会主義国家は将来破綻することを論証した論文である。この論文は一九三〇年に発表されている。言うまでもなく、その十年後、この本の著者トロツキーはメキシコでスターリンの刺客によって暗殺された。また、この「永続革命論」が発表されて六十数年後、ソヴィエト連邦は崩壊した。

 詳細は巻末の解説をじっくり読んでいただきたい。この本の解説は通常の簡潔なあとがきではなく訳者の精根を尽くした論文でトロツキーの書いた本文と共に併せて読めば、永続革命論の成立から現代の思想状況に至るまでの過程も含めて教えられることが多々あるだろう。

 ところで、「永続革命」とは何か? おそらくそれは第一義的には「第一次ロシア革命」前後の現状分析からトロツキーの出した理論であろう。すなわち、先進資本主義国のようにブルジョア革命を達成していないツァーリの専制政府が支配する後進国ロシアの革命ではプロレタリア独裁の過程で既に先進国で学んだ民主主義革命が後発的な有利性で急速に達成されそのまま社会主義建設に連なっていく、この考え方が基本になっているのではないだろうか。そればかりではなく、後発的に有利な状況下、手工業やマニュファクチュアを経ず先進国から大工業が輸入され、革命の主体であるプロレタリアートもペテルブルクやモスクワで既に形成されている、トロツキーはそう分析した。

 もちろん、私は革命家でもなく革命理論研究者でもなく、トロツキーに強く批判されている自営業者の小ブルジョアジー、右に行くか左に行くかわからない日和見主義者だった。ただ、ロシア革命の具体的な現状分析から解析されたトロツキーの革命論は、スターリンのような過去のマルクスやエンゲルスの理論から抽出した「理念」や極端な場合自分の権力を集中するために都合の良い「固定観念」等と対立するのは、当然の成り行きに違いない。取り敢えず、二十世紀を深く知るためには、いずれにしてもどちらの言い分も、また、一九一七年の革命成立以降、彼等はどんな人生を渡ったのか、知っておくにこしたことはないだろう。

 この本の中で、私が「いいね」と思った箇所のうち、ひとつだけあげて、この拙劣な読書感想文の筆を擱きたい。

「一国の枠内での社会主義革命の完成は考えられない。ブルジョア社会が危機に陥った基本的理由の一つは、それによって創出された生産力が国民国家の枠ともはや両立しえなくなっているという点にある。このことから、一方では帝国主義戦争が、他方ではブルジョア的ヨーロッパ合衆国のユートピアが生まれる。社会主義革命は、国民的舞台で開始され、国際的舞台へと発展し、世界的舞台で完成する。こうして、社会主義革命は、言葉の新しくより広い意味において永続的なものとなる。それは、我々の惑星全体での新社会の最終的勝利にいたるまで完成することはない。」(本書352頁)

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