手のひらをひらく

月の光がいちめん落書しているこころは悲しい

こころは空である 月の飛ぶ庭である

過去も未来もない

暗い穴にじっとうずくまって

消しゴムを離そうともしない

もう落書なんて忘れたいから

もう誰に見られたくもないから

くれないの花 ちちと撒き散らして

舞いあがった こうもりのように

少年はみずからの痛ましいこころの空へと

手のひらをひらく

*一九八〇年二月三日、日記帳に書いていた詩。私は三十歳だった。

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